株式会社シフト・ビジョンが展開する、イノベーションのヒントを探るインタビューシリーズ。第4回は、TXP Medical株式会社 代表取締役・園生 智弘(そのお ともひろ)氏に話を聞いた。後編では、園生氏が持つ現場のリアルな感覚をどのように事業の勝ち筋へと変えてきたのか。さらに、イノベーションを起こし続ける組織づくりについても迫る。(前編を読む)
“挑戦家”ではなく、勝ち筋を読む“設計者”

救急搬送から救急外来、急性期病棟、転院・退院後に至るまでの医療データの分断に向き合うTXP Medical株式会社。代表取締役の園生氏は、現場の課題を起点に、これまで数々の新たな仕組みを生み出してきた。
しかし、本人は自分自身を「イノベーター」とは捉えていない。
「イノベーター、あるいは、挑戦的な人間であると思われがちなんですが、実はすごく慎重派です」
現に、園生氏は「ヒアリングありきのサービスは作らない」というスタンスを徹底している。顧客の要望を集めないと輪郭を描けないようなものには、作る前からブレーキをかけるのだ。既に走り出した事業であっても、いずれ負けると判断すれば、早々に手仕舞いすることもあるという。
外から見れば、大胆な挑戦に映るかもしれない。だが、その内側にあるのは、勢いだけではなく、考え抜かれた戦略設計だ。必ず勝てると見るまで走らない。勝てないと見れば、深追いしない。園生氏のイノベーションは、そうした慎重な見極めの上に成り立っている。
強烈な違和感の先にある、イノベーションの種

では、園生氏は何をもって「勝てる」と判断するのか。
園生氏は、イノベーションが生まれる起点はいつも同じだと語る。それは、世間一般で語られている共通見解と、現場で聞こえてくる声とのあいだにあるズレだ。
市場レポートや専門家の見立て、コンサルティングファームの分析。8割は「そのとおりだ」と感じる情報の中に、ときに強烈な違和感を抱くものがあるという。
「明らかに世の中の見解が過熱しているだけで、現場は誰も求めていないんじゃないか。あるいはその逆で、誰もあまり注目していないけれど、ものすごいペインのエネルギーが現場にはあるんじゃないか」
こうしたベクトルのズレを見つけたとき、園生氏はさらに現場に入り込み、違和感の正体と、自らの仮説を検証していく。すると、視界が開ける瞬間に出会う。
「僕はこれを“霧が晴れる瞬間”と呼んでいます。事業の形や必要性、規模感まで。ここに道があると、明確に見えるんです」
TXP Medicalの出発点も、まさにその構造だった。病院向けサービスでは予防、健診、がん領域などに注目が集まりやすい。そんな中、園生氏は救急医療の現場にあふれるほどの“ペイン”があると見ていた。10病院、20病院と巡り、現場の反応を確かめた先に、「どう考えてもいける」という確信が生まれたという。
周囲からは、「一人会社が病院に受け入れられるはずがない」と言われた。それでも、園生氏の中では既に勝ち筋が見えていた。まだ多くの人が気づいていない道を先に見つけ、そこで一気にアクセルを踏んだのだ。
落とし穴にはまらないよう「世の中の傾き」を読む
「霧が晴れる瞬間」の精度を上げるために、園生氏がもう一つ大事にしていることがある。それが、「世の中の傾き」を読むことだ。
医療は規制産業であり、市場原理だけで動くわけではない。国は診療報酬改定で何を打ち出そうとしているのか。その背景にはどのような意図があるのか。医療費をどのように制御し、医療提供体制をどこへ向かわせようとしているのか。そうした流れを、園生氏は「世の中の傾き」と捉えている。
「ここに反発すると、いくらイノベーティブなことをやっても這い上がれない。落とし穴に落ちるか、やってもやってもスケールしないことになりがちなんです」
だからこそ、厚生労働省や総務省消防庁とも密に意見交換を重ねる。省庁の考えが絶対的に正しいかどうかではなく、国がどのような未来を描いているのかを知るためだ。
その方向性が見えれば、民間の医療関連事業者に求められる役割も変わる。国の目指す先と現場の課題。その両方を見ながら、自社が向かうベクトルを微修正していく。
園生氏は、「現場のペイン」と「世の中の傾き」の両方を見ながら、医療という規制産業で確実に勝つ道筋を探っている。
複数のオーナーによるトップダウン

ここからは、園生氏の考え方が組織づくりにどう反映されているのかを見ていきたい。TXP Medicalの意思決定について、園生氏は「完全にトップダウン型ですね」と話す。
ただし、すべてを園生氏自身が握り続けるわけではない。事業やサービスに対して強いオーナーシップを持ち、誰よりもその領域のイノベーションを継続できる人が現れたときには、権限を委譲するという。
救急隊向けの事業も、最初は園生氏が立ち上げたものだ。しかし、同氏は医師であって、救急隊ではない。ある段階で、自らの手元に事業を置き続けることによる成長の鈍化を感じた。
「いくらアクセルを踏んでもトップスピードに乗らないと感じたので、あるメンバーに一任する判断をしました。彼は、救急隊を巻き込む方法を自ら発見して、実践してくれた。うまくガソリンを注いでくれましたね」
TXP Medicalでは、事業ごとに、その道を誰よりも信じるオーナーが立つ。いわば、複数のトップがそれぞれの領域でアクセルを踏んでいる組織なのだ。
任せるなら“全国制覇”を本気で言える人に
なかでも園生氏が好むのは、自分の構想で「日本を取る」「世界を取る」と本気で語れるような、大志を抱いた人だ。
「新メンバーに、自分に求めることは何かと聞かれたので、“全国制覇。それ以外は求めていない”と伝えたことがあるんです。すると彼は、“できます。僕は日本を取るためにこの会社に来たんで”と返してきましたね」
次のサービスを立ち上げるには、それほどの熱量がいる。頑張れば事業が作れるかもしれない、という程度では足りない。「世界を取るくらいの気概がなければ、日本も取れない」というのが園生氏の考えだ。
園生氏のもとには、こうした「ある意味アクが強い人たち」が集まる。彼らは園生氏の考え方に共鳴しながらも、それぞれの領域で自分の仮説と意志を持ち、成長を加速させていく。TXP Medicalのイノベーションは、園生氏一人のものではない。彼らもまた、この会社のイノベーターなのだろう。
日本の急性期医療を、世界のインフラへ

園生氏に今後の野望を尋ねると、返ってきたのは「世界にも誇れる日本の急性期医療のインフラを、グローバルに広めていきたい」という言葉だった。
急性期医療の体制が十分に整っていない海外の地域では、たとえ日本なら救える可能性がある状態であっても、「もう助からない」と判断されることがある。さらに、その認識は、医療現場のみならず社会にも根づいてしまう。救急車を呼ぶ、あるいは治療で全力を尽くすという選択に至らず、家族で安らかな最期を祈るという場面は、現に存在しているのだ。
園生氏が変えたいのは、その認識そのものだ。だからこそ、人材や教育も含めて、急性期医療のモデルそのものを届けていくことが必要だと見ている。
「教育は、文化を変える試みでもあります。“もう助からない”ではなく、“日本なら助かる。では、なぜここでは助からないのか”と考える。その目線を持つことが、医療体制を変える第一歩になるはずです」
園生氏が見ているのは、単なる海外展開ではない。「助からない」とされてきた命に、もう一度、助かる可能性を見出すことなのだ。
まとめ:霧の先にある道を突き進む
現場の努力によって支えられてきた、日本の救命救急の質。TXP Medicalでは、データやソフトウェアによって、そのクオリティをより再現性のあるものにしていく。園生氏は、その先に、日本の急性期医療を世界へ広げる可能性があると見ている。
ここに至るまでの道のりは、決して平坦ではなかった。自治体向けの事業では、無料の実証事業を続けていた時期もある。周囲から「お前、頭おかしくなったのか?」と言われたこともあったという。
それでも園生氏は、「絶対に勝てる」と言い続けた。現場にあるペインを見つめ、仮説を確かめ、霧が晴れた先に見えた道を信じ続けた。
「世の中みんなが反対意見もなくサポートしてくれる、“そりゃそうだよね”って思ってくれるところに、イノベーションは起きないですから」
誰もが納得する道ではなく、まだ多くの人が気づいていない道を見つける。そして、見えた瞬間に走り出す。園生氏のイノベーションは、これまでもそうやって生まれてきた。これからの未来、その道の先で、急性期医療のあり方を塗り替えていくのだろう。
会社概要
会社名:TXP Medical株式会社(英語表記:TXP Medical Co. Ltd.)
設立:2017年8月28日
所在地:〒101-0025 東京都千代田区神田佐久間町三丁目21番地24
資本金:100,000,000円(2022年6月現在)
代表者:代表取締役 園生 智弘
事業概要:
・救急・集中治療・救急隊向けの医療データシステム (NEXT Stage ERシリーズ)の開発と提供
・がん診療支援研究データシステム(NEXT Stage Oncology)の開発と提供
・医療AI技術の開発と提供
・医療データプラットフォームの構築、リアルワールドデータの解析
・臨床研究支援事業
・医療機関に対する経営支援及びコンサルティング事業
プロフィール

園生 智弘(そのお ともひろ)
TXP Medical株式会社 代表取締役。1985年東京生まれ。2010年、東京大学医学部卒業。東京逓信病院、東京大学病院、日立総合病院などで、主に救急・集中治療領域の臨床業務に従事し、救急科専門医、集中治療専門医を取得。臨床現場で感じた急性期医療の課題をもとに、2017年8月、TXP Medicalを創業した。
TXP Medicalでは、急性期医療に関連するソフトウェアシステムの提供と、医療データを活用した製薬企業向けサービスを2つの軸に事業を展開。取材時点で、病院向けサービスは、400床以上の大病院を中心に100病院で導入されているほか、自治体向けサービスは人口カバレッジで全国の約10%、約1200万人に相当する自治体で採用されている。製薬企業向けサービスでも40社以上の利用実績を持つ。
コメント