株式会社シフト・ビジョンが展開する、イノベーションのヒントを探るインタビューシリーズ。第4回は、TXP Medical株式会社 代表取締役・園生 智弘(そのお ともひろ)氏に話を聞いた。前編では、創業の原体験や事業の内容、現場発のものづくりのあり方に迫る。
誰が仕組みを変えるのか。それは、自分だ

患者を乗せた救急車。一刻を争う状況の中、救急隊員は一件一件電話をかけ、受け入れ可能な病院を探す。
救急医として最前線に立っていた園生氏は、そんなアナログなオペレーションに強い違和感を抱いていた。園生氏だけではない。臨床現場では、誰もがシステム化の必要性を感じている。しかし、結論はいつも同じだった。「誰かが作ってくれたらいいのに」。
「自分としてはそれがもどかしかった。自分が解決しないと、10年経っても何も変わらないと感じました」
こうして園生氏は、自ら救急医療現場の課題を解決するためのITツール「NEXT Stage ER」原型を自ら形にし、TXP Medical株式会社を立ち上げた。園生氏が医師として働き始めて8年目、2017年8月のことだった。
急性期医療の分断をつなぐ。救急搬送から病院、その先へ

TXP Medicalが向き合っているのは、救急搬送から救急外来、急性期病棟、転院・退院後に至るまでの医療データの分断だ。
病院内には電子カルテがあり、救急隊には119番通報を受ける仕組みや事務システムがある。しかし、救急隊が現場で患者情報を病院に伝える場面や、病院から別の病院・施設へつなぐ場面には、いまだ電話や手作業に頼る部分が残されている。
「急性期医療の一連の流れを、いい形でシステム化したいという思いはずっとあります。ただ、この領域にはさまざまな既存システムが存在している。少なくとも最初は、パッチワーク的にその間を埋めないといけないと考えました」
その結果として、中核となる急性期病院向け救急外来システム「NEXT Stage ER」や、救急隊向けの救急医療情報システム「NSER mobile」をはじめとする、数々のソリューションが生まれた。
今、TXP Medicalのサービスは、全国の自治体や医療機関へと広がっている。救急搬送の現場から病院、そしてその先まで。園生氏が見据えているのは、急性期医療を支える新たなインフラの姿だ。
救急車は時々しか来ない。先入観の裏にある巨大市場

医師でありながら、自らのクリニックではなく、会社を立ち上げた園生氏。一見するとレアケースのように思えるが、園生氏の周囲には、起業を含め、病院勤務にとどまらない働き方を選んでいる医師は多いという。
TXP Medicalにも、医師免許を持つ正社員が約10名在籍している。医療現場への深い理解は、同社の大きな特徴の一つだ。
しかし、現場の課題を知っているだけでは、事業は生まれない。急性期医療・救急医療という領域をマーケットとして捉えたところに、園生氏ならではの視点がある。
一般に、医療の市場を考えるとき、目に入りやすいのは外来や健診、日常的な通院の領域だ。救急車で運ばれる患者は「時々しか来ない」ように見えやすい。
しかし、園生氏の見方は違う。病院の入院患者の30%程度は、救急外来を経て入院する。救急出動件数は年間700万件を超え、搬送後に入院や高度な治療につながれば、発生する医療費もかなり大きい。
「急性期医療は、数兆円規模のお金が動く巨大な市場です。にもかかわらず、創業当時は先行事業者もほとんどいなかった。自分自身の経験もありましたし、この領域なら戦えるという確信めいたものがあり、切り込んでいったところは大きいですね」
医師として現場を知り、起業家として市場を見る。園生氏は、その両方の視点から、急性期医療の可能性を見出していた。
ないなら作る。起業へとつながる素地
とはいえ、園生氏にもともと強い起業意欲があったわけではない。胸の内にあったのは、社会の不条理に対する苛立ちと、長いものに巻かれたくないという思いだ。
そして、その反骨心を、ただの不満で終わらせなかったものがある。昔から好きだった「仕組みを作ること」だ。
研修医時代には、医師同士で当直枠を交換できる制度を考案したほか、救急外来で患者を帰宅させる際に、説明内容を紙にまとめて渡す仕組みも作った。“みんながめちゃくちゃ働いている”環境の中、どうやったら回る仕組みになるか、どうすればみんながストレスなく働けるかを考えた結果だった。
「“制度がないなら、俺、作りますよ”と言って、いろいろ実践してみました。それが高じて会社という形になったのかなと、自分では思っています」
長いものに巻かれるよりも、自分が「こうしたほうがいい」と思う方向へ進む。目の前の不便を見過ごさず、仕組みとして形にする。その延長線上に、TXP Medicalという会社があった。
現場の解像度をそのままに。自らの手で作るプロダクト
TXP Medicalの主力サービスである「NEXT Stage ER」も、園生氏が自ら原型を作り上げたものだ。
創業にあたっては、エンジニアの共同創業者またはエンジニアリング会社を見つけなければならないと考えていたという。園生氏はそれを「呪縛に囚われていた」と振り返るが、当時の彼にプログラミング経験がなかったことを思えば、むしろ当然の思考だろう。
転機となったのは、ローコードツールとの出会いだった。プログラミング経験がなくてもシステムを作ることができると知った園生氏は、創業前にその使い方を学び、自ら扱えるようになっていった。
「これなら、理想の救急外来の仕組みができると確信したんです。そこから、“自分で作っちゃおう”というマインドセットに切り替えました」
現在は、数十人体制のエンジニアチームが保守や改善を担う。それでも、同社が提供する製品のコンセプトメイクやプロトタイプを手がけるのは、基本的に園生氏だ。
現場で感じた課題をもとに、自分の手でプロダクトの原型に落とし込む。園生氏のものづくりは、医師としての経験と、作り手としての感覚が重なるところから始まっている。
ヒアリングに頼るものづくりは、勝てない

園生氏は今も、週に一度は臨床現場に立っている。そこから得られる現場感に代わるものは、他にない。
「現場のペインをダイレクトにプロダクトやサービスに反映できることが、自分の最も大きな強みだと思っています」
だからこそ、TXP Medicalでは、ものづくりに対して独自の考え方を持つ。
「社員には“ヒアリングしてものづくりをしたら負け”だと伝えています。解像度もスピードも、その現場にいた人間が自ら作り上げる事業には100%敵わないからです」
園生氏が否定しているのは、現場の声を聞くことそのものではない。外側から声を集め、それをもとにプロダクトを作ることの限界だ。
ヒアリングしなければ作れない状況なら、その現場にどっぷり浸かってきた人を会社に迎え入れるまでする。本人の中にある理想のシステムを定義し、リリースした瞬間から現場に受け入れられるものを作る。
そうした体制があって初めて、TXP Medicalは勝てる。園生氏は、ものづくりの前提として、その体制づくりを重視している。
まとめ:現場の課題を、医療をつなぐ力に変える
現場を知る。課題を見つける。仕組みを形にする。
園生氏のものづくりは、その一連の流れを誰かに委ねないところに本質がある。救急医療の現場で感じた違和感は、やがて急性期医療の分断をつなぐ仕組みへと変わっていった。
後編では、園生氏が現場感をどのように事業の勝ち筋へと変えてきたのか。そして、同氏が考える「イノベーションの起こし方」に迫る。
会社概要
会社名:TXP Medical株式会社(英語表記:TXP Medical Co. Ltd.)
設立:2017年8月28日
所在地:〒101-0025 東京都千代田区神田佐久間町三丁目21番地24
資本金:100,000,000円(2022年6月現在)
代表者:代表取締役 園生 智弘
事業概要:
・救急・集中治療・救急隊向けの医療データシステム (NEXT Stage ERシリーズ)の開発と提供
・がん診療支援研究データシステム(NEXT Stage Oncology)の開発と提供
・医療AI技術の開発と提供
・医療データプラットフォームの構築、リアルワールドデータの解析
・臨床研究支援事業
・医療機関に対する経営支援及びコンサルティング事業
プロフィール

園生 智弘(そのお ともひろ)
TXP Medical株式会社 代表取締役。1985年東京生まれ。2010年、東京大学医学部卒業。東京逓信病院、東京大学病院、日立総合病院などで、主に救急・集中治療領域の臨床業務に従事し、救急科専門医、集中治療専門医を取得。臨床現場で感じた急性期医療の課題をもとに、2017年8月、TXP Medicalを創業した。
TXP Medicalでは、急性期医療に関連するソフトウェアシステムの提供と、医療データを活用した製薬企業向けサービスを2つの軸に事業を展開。取材時点で、病院向けサービスは、400床以上の大病院を中心に100病院で導入されているほか、自治体向けサービスは人口カバレッジで全国の約10%、約1200万人に相当する自治体で採用されている。製薬企業向けサービスでも40社以上の利用実績を持つ。
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