株式会社シフト・ビジョンが展開する、イノベーションのヒントを探るインタビューシリーズ。第2回は、川口精機株式会社 代表取締役社長・大澤 宏典(おおさわ こうすけ)氏に話を聞いた。
老舗メーカーの3代目。レールの先は崖だった
「正直、3代目として入社するのは、敷かれたレールの上を歩くようで嫌でした。でも、入ってみたら、レールどころか崖しかなかったんです」
2026年で創業77年を迎える老舗の機械メーカー・川口精機株式会社(以下、川口精機)。同社の3代目として入社した大澤氏を待っていたのは、リーマンショックによる急激な市況悪化だった。売上は約3分の1まで落ち込み、経営は赤字に陥る。想像していた“後継者の道”は、はじめから敷かれていなかったのだ。
大澤氏はこの危機をどう受け止め、会社の転換点へと変えていったのか。大澤氏の言葉から、老舗メーカーの再起と実践のヒントを拾い上げる。
第一の転換|下請け60年から自社ブランドへ

やるしかない。覚悟が生んだ再起の道
「リーマンショックで、下請けの仕事はパッとなくなってしまった。経営を立て直すには、自社の努力で売上を立てられる事業が必要だと考えました」
創業以来、約60年にわたりOEMを主軸としてきた川口精機にとって、「自社で売れるものをつくる」への舵切りは大きな転換だった。それでも、なぜ挑んだのか。単刀直入に問いかけると、大澤氏は苦笑しながら、こう言った。「やるしかなかった、に尽きます」。
当初は、社内の空気も決してポジティブではなかったという。だが、売上が落ち続ける現実は、社員たちにも「新事業に懸けるしかない」と実感させた。たった3人から始まった取り組みは、徐々に5人、8人、10人に。人数の増加とともに、社内にも「うまくいくかもしれない」という意識が広がっていった。
小さな積み重ねの先にあるイノベーション
大澤氏が新たな自社製品の柱として選んだのは、食品残渣などを圧搾して脱水する装置「スクリュープレス」だった。水分を搾ることで重さや容積を減らせることから、廃棄物処理の現場で利用されている機械だ。
着想の起点は、長年続けてきた下請けの仕事にあった。川口精機がOEMで製造していた機械の心臓部にも、スクリューが使われている。「この技術なら生かせる」と、自社オリジナルのスクリュープレスを開発した。
しかし、製造する技術はあっても、売り先はない。そんな中、近所や行く先々でスクリュープレスの話題を出していると、「廃棄物処理で困っているもやし製造業者がいる」という情報が入った。
もやしは水分量が多く、一般的に生産量の約20%が廃棄物になるともいわれている。だからこそ、スクリュープレスとは相性が良い。すぐに相手先に連絡をとった。
最初は予測できない機械トラブルもあり、絵に描いたようにはいかなかったというが、手探りながらも真摯に向き合い、プロジェクトをやりきった。これは、売上の100%がOEMだった川口精機に起きた、革新の瞬間だったといえるだろう。
「イノベーションっていうと、すごくかっこいい言葉に聞こえますよね。でも、僕らが作るのは宇宙ロケットみたいなものじゃない。僕らにとってのイノベーションは、身近なものや、ちょっとした発見・出会いから生まれるものなんです」
あえて面倒と手間を引き受ける
大澤氏が語る差別化の軸は明快だ。スクリュープレスは「搾る」機械だが、現場ではそれ単体で完結しない。廃棄物を処理するためには、搾る前に粉砕し、それをスクリュープレスに搬送・投入するための機械が必要だ。しかし、スクリュープレス単体で納める業者がほとんどのため、その他の設備は顧客側で手配しなければならないケースが多い。
それに対して川口精機は、付帯設備まで含めた“一式”で整え、ボタン一つで動く状態までつくり込む。仕様は客先ごとに異なるため、会社としては手間もリスクも増えるが、そこまで引き受けるからこそ差別化を図ることができると、大澤氏は捉えている。
「お客様が『面倒くさい』『手間がかかる』と思うことを我々がやる。それが喜んでいただくことにつながります」
廃棄物を“飼料”に変えるという発想
水分を搾ることで減量はできるが、搾り終えた後に残るカスの処理にはなお費用がかかる。そこで大澤氏は、搾りカスを「飼料として使える状態」に整えるところまでを視野に入れた。
きっかけは、飼料化を専門とする企業との出会いだった。「もやしの廃棄物が飼料になるかもしれない」という話を受けて栄養価の分析を依頼したところ、家畜の飼料として用いられる「アルファルファ」という牧草と成分が近いことがわかったという。
ただし、搾れば何でも飼料になるわけではない。水分量などの条件があり、安定して供給するには調整や運用の設計も必要になる。川口精機は、飼料として継続的に出せる状態に向けたセットアップまで伴走している。

大澤氏によれば、この取り組みは関わる三者にメリットをもたらした。もやし製造業者は産廃コストを抑えつつリサイクルにつなげ、飼料側は円安基調で輸入飼料が高騰する中でも代替の選択肢を得る。川口精機のブランド力も高まった。
「スクリュープレスを製造する企業の中でも、飼料化まで手がけるのは川口精機独自の取り組みです」
と、大澤氏は語る。下請けから自社ブランドへ。さらに“処理”から“循環”へ。崖っぷちで選んだ一手が、会社の価値を一段上へと押し上げていった。
第二の転換|廃棄物処理機がジュースマシンに

タイの経済情報誌「MBA Magazine」で紹介される大澤氏。
日本市場の外へ。東南アジアを見据えた布石
「実はこのインタビューを受けている今も、タイの展示会場にいるんですよ」
大澤氏の声の向こう側には、海外市場の熱気がある。川口精機が海外展開を始めたのは、8〜9年前のことだ。大澤氏は現在、2週間に一度、タイと日本を行き来しているという。
海外への進出を決めたのは、東南アジアでも廃棄物を減らすことに対するニーズがあると見込んだからだ。これから会社を成長させていくうえで、日本市場だけに頼らない選択肢を持つ必要性も高いと考えたという。
加えて、タイの市場に詳しい経営者との出会いも背中を押した。まったくのゼロベースで乗り込むのではなく、現地を知るパートナーがいるほうが動きやすい。そこで、まずはタイに事務所を構え、現地常駐スタッフも配置した。
展示会で見えた想定外の需要
ところが、大澤氏の読み通りにはいかなかった。
「いざタイに来てみたら、廃棄物を減らしたり、リサイクルしたりすることに、皆さん全く関心を持っていなかったんです」
一方で、展示会では予想外の反応も得られたという。「この機械はジュースマシンか?」という問い合わせが相次いだのだ。現地では、パイナップルやココナッツなど、果物ジュースを作る機械としての需要が非常に多いことを実感した。
大澤氏によれば、川口精機の国内では食品廃棄物の処理用途が90%を占める。それでも大澤氏は、たった1回の展示会で、東南アジアでは「コールドプレス搾汁機」として打ち出す方針へ切り替えたという。
用途が変われば、求められる要件も変わる。ジュース用途では、汚れが付きにくい表面仕上げや分解洗浄のしやすさなど、毎日使う現場の目線で仕様を磨き込んだ。さらに東南アジアでは求められる処理量が多く、より大型の機械に対するニーズが次々に出てくる。「最大サイズをもっと早く作っておけばよかった」と大澤氏が振り返るのも、現場で見えた想定外の一つだ。
現在、東南アジアでは、ジュースや食品素材、各種エキスなど「搾るための生産機械」としての引き合いが大半を占める。大澤氏のスピード感ある決断は、日本とは異なる用途と市場を切り開いた。
ジュースの先にある、次の波を待つ
「日本で当たり前の『廃棄物削減』や『リサイクル』という文化は、いずれ東南アジアにも波及すると思います」
大澤氏は「半分は僕の希望です」と笑いながら、今後の見立てを語った。現時点ではジュース用途の需要に特化し、実績を積み上げる。それが第一ステップだ。
やがて、廃棄物処理やリサイクルが課題として意識されるフェーズに入ったとき、川口精機が日本で培ってきた知見を改めて武器として展開していく考えだ。
加えて大澤氏は、東南アジアでは日本に対する評価が高く、「日本の機械」として受け入れてもらいやすい実感があるとも語る。その追い風を生かしながら、需要の変化に合わせて次の一手を準備している。
メッセージ|一歩踏み出す。最後までやりきる。
最後に、これからイノベーションを加速させたいと考える企業に向けて、大澤氏にアドバイスを聞いた。
「リスクはどこにでもある。でも、リスクを考えすぎると、前に進めなくなってしまう。まずは、一歩を踏み出すことが大切だと思います」
さらに大澤氏は「あんまり考えすぎないのがいいんじゃないかな。最初から思い描いた状態になるわけではないですから」と続けた。実際に大澤氏も、客先での初めてのスクリュープレス導入や海外展開の過程で、想定とは異なる状況を何度も経験している。
だからこそ、大澤氏が強調したのは「やりきる力」だった。
「方向転換や軌道修正しながら、結果が出るまでやる。これが一番大事だと思うんです」
大澤氏は、「僕の場合、後に引けないだけですけどね」と笑う。だが、崖しかなかった場所から未来へ続く道を切り開くことができたのは、その覚悟があったからだといえるだろう。
会社概要
商号:川口精機株式会社
設立:1949年6月
所在地:〒424-0037 静岡県静岡市清水区袖師町902番地
代表取締役社長:大澤 宏典
事業内容:スクリュープレス脱水機の製造・販売
プロフィール

大澤 宏典(おおさわ こうすけ)
川口精機株式会社 代表取締役社長。2003年、3代目の後継者として入社。2010年から自社製品であるスクリュープレス脱水機の製造・販売を開始。現在は韓国、タイ、マレーシア、シンガポールへの海外販売に注力し、日本とアジアを駆け回る日々を送っている。20代は学生時代からバンド活動を継続し、英語のオリジナル曲でアメリカのインディーズレーベルからCDを発売。iTunesでも配信されている。
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